【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ
*
「悠樹、模試でまた学年首位になったらしいじゃないか」
夕食を食べていると、みそ汁の入っていた茶碗を置いた父がいきなりそう切り出した。
普段夜遅くまで働いている両親と、塾で帰りの遅くなる弟の悠樹とで、揃って家族全員で夕食を囲むのは久々のことだった。
「ええ。先生からも電話がかかってきて褒められたわ。さすがね、悠樹は」
母が間髪入れずに、浮き足立ったような声でそう相槌を打つ。
「そんなことないよ」
悠樹が隣でそう謙遜の声をあげる。
悠樹の場合は形だけの謙遜ではない。
控えめで自分を主張しすぎないのが悠樹だった。
中学3年生で年子の悠樹は、近所でも有名な優等生だ。
成績優秀でスポーツ神経も抜群。
模試では常に首位をキープし、高校も全国トップクラスの学校を先生たちから勧められていると耳に挟んだ。
その高校は両親が卒業した学校のため、両親からの期待も厚い。
「まったく。悠樹はいつも私たちの期待に応えてくれるな」
「こんな息子をもって鼻が高いわ」
弾んだ会話が続く中、俺だけは蚊帳の外だ。
両親が悠樹だけに目をかけるのは今に始まったことではなく、今更思い知るようなことでもない。
こうなるのも当然のこととも言える。
俺と悠樹の出来は、雲泥の差なのだから。
悠樹の隣で、俺はみそ汁をすする音をたてないように苦心した。
この場所にいると、まるで自分が空気と同化したみたいに思える。
透明人間のように扱われるなら、透明人間になるように徹するだけだ。