【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ
味わう余裕もなくみそ汁を飲み干し、テーブルから立ち上がる。けれど。
「――悠心」
ここから逃げようと逸る俺を、父は見逃してはくれなかった。
名前を呼ばれたのなんて、いつぶりだろう。
本来なら嬉しいことのはずなのに、父の声音は浮かれる余地さえ与えてくれない、ひどく冷たく突き放すようなそれだった。
警鐘を鳴らすように、心臓が不整脈を繰り返す。
今すぐここから消えてしまいたいと願うが、俺の体はそんな超常現象を起こしてくれるはずもなく、ただここに在るばかり。
さっきまでは空気扱いをしていたくせに、そう都合よくは透明人間でいさせてくれないらしい。
「お前も少しは悠樹を見習ったらどうなんだ」
父はこちらを見ようとはしない。
さっきまでとは打って変わって眼鏡の奥の瞳は冷え切り、投げ出すように夕食に向けられている。
母は素知らぬふりを決め込み、黙って箸を進めている。
「バスケもできなくなって、遠くの高校に行って。結果がなにもついてこないじゃないか」
父の言葉に、目の奥がかっと熱くなるのを感じた。