【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ
「私、多分、榊くんと見たこの景色を何度も何度も思い出すよ。そのたびに、幸せだなあって思える」
小坂の声だけが俺の意識を捕らえ、街中の喧騒は遥か遠くにあるようにぼんやりとしか聞こえない。
この広い世界に、小坂とたったふたりきりでいるような錯覚を覚える。
ふと、小坂と別れるのが惜しくなった。
いっそこのまま時間が止まってしまえばいいのにと、心のどこかでそんなことを思ってしまう。
だって、小坂に出会わなければ捨てるはずだった今日がこんなにも彩り豊かなものだったなんて、想像もしなかったんだ。
心の奥底で眠っていた感情が揺り起こされようとしているのを感じながら、俺はそっと唇を開く。
「俺もきっとそうだ」
「え?」
「俺も思い出すよ。この景色も、隣にいた小坂のことも」
心からこぼれた言葉というのは、温度を含むということを初めて知った。
すると小坂が、隣ですんっと鼻をすすった。
「……おかしいな、涙腺、緩くなっちゃったのかな」
瞳のふちからこぼれそうな涙をそっと拭い、「榊くんのせいだね」と言って泣き笑いする小坂はとても儚くて、それなのに夕焼けに負けないくらい眩しかった。