【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ
「紗友は将来のこと、決まってるの?」
BGMと化していた雑音の中から、唐突にふと小坂の名前を拾い取った。
人間は多くの音の中でも興味のあるものを聞き取ると聞いたことがあるけれど、そうなのだろうか。
声がしてきた方を辿れば、小坂が後ろの席の女子と話しているのが見えた。
体を後ろに向けているから、教室最後列の俺の席からも顔が見える。
小坂はなにを目指しているのだろう。
やっぱり進学だろうか。
詳しいことはわからないけれど頭がいいらしいと風のうわさで聞いたから、推薦でも目指しているのかもしれない。
盗み聞きはいけないとわかっていながらも興味の方が先行してしまった。
遠くからじっと見つめて耳をそばだてていると、小坂は首を傾げて笑った。
「うーん……、どうだろ」
それは、なんとなく小坂らしくない歯切れの悪い笑顔だった。
見たことのない笑い方に、ふとわずかに胸の中に違和感が生じる。
けれどその時。
「はーい、授業始めるぞー」
踵を引きずる独特の音を立てながら、定年が近い古文のおじいちゃん先生が教室に入ってきた。
それに続くように1時間目の授業開始を知らせるチャイムの音が鳴り、俺の思考はそこで遮断された。