【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ
「……い、おーい」
――いや、たしかにだれかが呼んでいる。
はっと目が覚めた。
器官に入り込んだ水にむせて、咳を繰り返す。
そして靄が晴れてクリアになった視界に最初に飛び込んできたのは、見たこともない女だった。
「ああ、やっと起きた!」
俺と同世代くらいに見える女が、俺の顔を覗き込んでいた。
胸元まである茶色い髪は、手入れがしっかり行き届いているのが一目でわかるくらい艶があり、等間隔で緩やかに巻かれている。
華のあるはっきりとした目鼻立ちが、白い肌により一層強調され、透明感と清楚さを醸し出していた。
とびきりがつくくらい“可愛い子”が目の前にいるこの状況から導き出される答えはひとつだった。
こんなことを思うなんて、頭がおかしくなったのかもしれない。
けど、もしかして……天使か……?
「あんた、だれ……?」
「私のことなんてどうでもいいの。それより体は平気?」
「ああ。あれ、俺……」
「川辺で倒れてたんだよ。もう、びっくりしたんだから」
顔をゆっくり動かせば、自分が土手のようなところに横になっていることを悟る。
川に落ちて、水の中で苦しみながらもがいていた感覚が体全体に残っている。
あの時、自分の命が途切れる瞬間をはっきり感じたのに、死にはぐったのか。
体から力が抜けていくのを感じた。
視界を占めるのは、厚い雲が我が物顔でのさばる空。
たしかに天国の空がこんな薄汚れた色のはずがない。
死のうと思ったのに、それすらもやり遂げることができないなんて。
なにもかもが中途半端な自分に嫌気がさして、笑いさえ込み上げてくる。
膝をついて上体を起こし、はあ、と呆れの重い息を吐き出すけれど、負の感情の質量は全然変わらない。