【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ
空っぽだったかごは、いつの間にか食材でいっぱいになっていた。
そしてぱんぱんに膨らんだビニール袋を持ち、食品売り場を出る。
「たくさん買ったね。重くない?」
「ああ、平気だ」
「お菓子、つい結構買っちゃったなぁ」
「でも大事なんだろ」
「うん、大事。とっても大事」
そんな会話を交わしながらスポーツ用品売り場へ通りかかった時。
「あ、マイケルジョーダン」
壁に貼られたマイケルジョーダンのポスターを見て、まるで落ちたことに気づかないくらいぽつりと、隣で小坂が呟いた。
それを拾い取った俺は、彼女の口から出た思いがけない単語に驚く。
彼はバスケ界で知らない者はいない、伝説の有名なバスケ選手だ。
でもそれはバスケの経験者だからであって、バスケと縁のない女子高生の大半は名前さえ知らないはずだ。
「知ってるのか?」
「うん。バスケ部のマネージャーだったから」
ひらがなをなぞるように、小坂がこちらを見ずに返してくる。
それは初耳の情報だった。
まさか小坂がバスケの関係者だったなんて。
中学の頃は練習試合や大会で他校との交流する機会が幾度となくあった。
もしかしたら、どこかで会っていたかもしれない。
けれど、小坂はそれ以上話を広げようとはしなかった。
代わりに、からっとした笑顔で俺を見上げてくる。
「それより、今日の夕飯楽しみだね!」
「あ、ああ」
話をそらすような素振りが一瞬気にかかったけれど、それはちょうどよかった。
小坂との過去の接点の有無には興味はあるものの、俺にとってもバスケのことは深堀したくない話題だったからだ。
お互いが取り繕い、つぎはぎだらけの空気は居心地がいいとは言えない。
けれどこの空気の上手な断ち切り方を、俺は知らなかった。