【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ
大きく膨らんだスーパーの袋と共に店を出て、俺の家へ向かう。
その途中で堤防を見つけると、ひょいと軽やかな足取りで小坂が堤防の上に登る。
両手を横に伸ばしてバランスをとりながら、俺より身長が高くなった小坂が俺を見下ろしてくる。
「ね、榊くんも登ってみて」
言われたとおり堤防の上に登り、小坂の後ろを歩く。
食材がぎゅうぎゅうに詰まり重いビニール袋がバランスの邪魔をしてくるけれど、大した弊害ではない。
「ここから落ちたらワニに食べられちゃうから気をつけて」
「なんだよそれ」
「そっちの方がスリルあるでしょ?」
「たしかに」
「榊くん、バランス能力高くない?」
「そうか? 小坂も高い」
「へへ、ありがとう」
小坂といると、あれこれ頭の中で考えるよりも先に勝手に喉の奥から言葉が出てくる。
小坂には、なにかを引き出す不思議なパワーがあるのではないかとさえ思える。
奥底にしまい込んだ感情や言葉さえも、うっかりこぼれてしまいそうなほど。
堤防を越えると、小坂はまたさも当然のように俺の手を握ってきた。
あまりに自然な流れで、緊張や動揺する間さえ与えてくれない。
一日の仕事を終えた太陽が山の間に沈みかけ、黄金色の夕陽が俺たちの影を地面に映し出す。
手を繫いで歩いていると、地面に映る影は繫がってひとつだ。
そんな些細な発見が、なぜかくすぐったく思えた。