【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ
あまりのおいしさにぱくぱくと食べ続けていると、小坂はカレーに手をつけず、なぜかそんな俺をじっと見つめていた。
その瞳の奥にじんわりとした熱を潜めて。
その様子に気づいた俺は、心配になってスプーンを持つ手を止める。
「どうかしたのか?」
「ちょっとね……なんか、じんときた」
「え?」
小坂が笑顔に湿った感情を隠すように顔を俯ける。
「だってこういうの、家族っぽいから……。私、大好きな旦那さんと愛する子どもたちに囲まれる生活が夢だったんだよね」
どきりと心臓が反応したのは、小坂の瞳から涙がこぼれ落ちたように見えたからだ。
けれど実際にはそれは俺の勘違いで、顔を上げた小坂の表情にはもう、泣き出しそうな気配は一切感じられない。
ふと思う。
将来、小坂の隣にはだれがいるのだろうかと。
大人になった小坂は、だれに向かって笑いかけているのだろう。
小坂の隣に立つぼんやりとした輪郭だけの人影を思いながら、平らかだった心がなぜかざらついた。