【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ
すると不意に、髪になかにかが触れた。
見れば、彼女が白いハンカチでびしょびしょに濡れた俺の髪を拭いているところで。
「災難だったね。川に落ちちゃうなんて」
「――やめろ」
俺は思わずその手を振り払っていた。
反応が少し遅れてしまったのは、白い綺麗なハンカチで躊躇いなく泥水を拭こうとする彼女に唖然としていたから。
「あんたのハンカチが汚れる」
もっと気の利いた言い方があるに違いない。
彼女の優しさには感謝しているし、本当はそれに見合った優しさを返したい。
けれど俺には、こんな言い方しかできないのだ。
まるで針の部分しか向けられないハリネズミのように。
「それに俺は川に落ちちゃったんじゃない。自分から落ちたんだ」
「え?」
彼女が目を見開く。
その瞳に浮かぶ彼女の驚きとショックは見て見ぬふりをした。
親切にしてくれた彼女には悪いけれど、これ以上傷口を抉られたくはなかった。