【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ
それよりも、彼女は俺の意識が戻るまでずっとそばにいてくれたのだろうか。
たまたま通りかかっただけだろうに、見ず知らずの男が倒れていたせいで迷惑をかけてしまった。
「悪かったな、俺のせいで面倒なことに巻き込んで」
すると、しゃがみ込んでいた彼女が、ふっと表情を緩めた。
そこに花が咲いたような、柔らかい笑顔だった。
「優しいね」
「優しい?」
「自殺未遂するくらい大変な状況なのに、こっちのことばっかり気遣ってくれるなんて」
や、さ、し、い。
平仮名でたった4文字のその言葉があまりに自分に似つかわしくなくて、自分の体の中に浸透するまでに時間を要した。
眉根を寄せて考え込んでいると、自分でも気づかないうちに変な顔をしていたらしい。
彼女に「どうかした?」と突っ込まれてしまった。
「いや……、優しいなんて初めて言われたから」
「それはまわりの人が、君を見る目がないだけだよ」
凛とした響きで彼女はそう断言するけれど、初対面のうえ不器用な対応しかできていない俺のことを買い被りすぎだ。
棘に包まれた小包を、“優しさ”として受け取ってくれた彼女の人柄のせいだと思う。
でも、優しい、か。
彼女のお墨付きは、今までに感じたことのないじんわりとした温かい気持ちとなって胸の中に広がっていく。
冥土の土産ができた気がする。