【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ




それから俺たちは電車に乗り込んだ。


車内はやはり、花火大会に向かうらしき人たちでごった返している。


俺たちはドアのすぐ脇にスペースを見つけ、そこに立つ。


小坂はびっくりするくらいに普通どおりだった。

焦燥感に駆られていた自分の方が恥ずかしくなってくるくらいに。

けれどそんな自然な小坂の振る舞いに救われていたのは、否定のしようがない事実だった。


縦長の車窓から移り変わる外の景色を見ながら、他愛ない会話を交わしていると。


「そういえばもうすぐ七夕だね」


電車の中に貼られた『七夕フォトコンテスト』の貼り紙を見て、小坂がそう切り出す。

思い思いの七夕に関する写真を応募するコンテストらしい。


「もうそんな時期だな」

「知ってる? 彦星のアルタイルと織姫ベガの距離はだいたい140兆キロなんだって」


小坂は空のことに関して博識だ。

会話の中にさりげなく雑談が盛り込まれ、あっと驚かされることも少なくない。

けれどそれをひけらかそうという感じはなく、そういうところが小坂らしい。


「そんなにあるのか?」

「とんでもなく遠距離だよね。彦星と織姫、生まれ変わったらずっと一緒にいられるといいな」

「生まれ変わったら、か。たしかにそうだな」


愛、というものはよくわからないけれど、一年に一度しか会えず離れ離れになるなんて、そんなの残酷だ。

どれほど胸が痛むことだろう。


そうして空にいる彦星と織姫に思いを馳せていると。


「ねぇ。榊くんは生まれ変わりって信じる?」


くるんと持ち上がった睫毛をさらに持ち上げ、上目遣いで小坂が問うてきた。
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