保健室以外でも、キミに会いたい。



昨年の夏、仲の良かった両親の関係は父のリストラをきっかけに一変した。

家にいることが多くなった父と、仕事で疲弊していた母。 


家族団らんの場所だったリビングからは毎日のように言い争う声が聞こえ、私は自然と部屋に籠ることが多くなった。

それは秋なり、冬になっても続き、とうとう季節は春を迎えた。



だが、そんな日常はある日突然終わりを告げる。

両親が離婚を決めたからだ。

「乙葉ごめんな。頼りない父さんで」


父は最後にそう言い残すと、鞄一つ分の荷物を持って家を出た。

私はその背中を黙って見送るだけで、何も言えなかった。

ガチャンと音を立て閉まる扉を見ながら「そんなことないよ」なんて誰にも届かない言葉を口にする。

大好きな父を引き止められなかった。

こんなことになるなら、もっと前に両親に自分の気持ちを話せばよかった。

お父さんもお母さんも大好きだって。

だから言い争いなんてしないでって。

そんなことを今更になって思う。

もう、私は声を出せないけれど。



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