保健室以外でも、キミに会いたい。
「織田くん、あのね」
私が黙り込んだのを見かねて、畑中先生が口を開く。
こういう状況は初めてじゃない。
私は『大丈夫です』という意味を込めて先生に視線を送った。
そうだ、メモに返事を書くより先に私が話せないことを伝えないと。
私は手に持っていたメモとペンをソファーへと置き、代わりに生徒手帳を取り出した。
余白の1ページ目には私が失声症を患っていること。
それによって話せないこと、耳は聞こえていることが簡潔に書いてある。
そのページを織田くんと呼ばれる彼に向けた。
書いてある文章を読むために、織田くんの視線が動く。
そして、数秒の沈黙が続いたあと「ああ噂で……聞いたことある」と口にした。
私が筆談やジェスチャーを使って話すうちに、一部の生徒の間で『話せない子がいる』と噂になっていたのだ。
初対面の相手にいきなりこんなことを言われても困るよね。
(早く教室に戻ろう。)
そう思って置いておいたメモとペンを手に取る。
すると、背後から「逆に俺のことは知らん?関西弁のイケメンがおるとか噂になってない」と真剣な表情で問いかけられた。
関西弁のイケメン。
そんな噂は入学してから一度も耳にしたことがない。
私が首を横に振ると「俺もまだまだやな」なんて言葉が苦笑と共に返ってくる。