エリート外交官は別れを選んだ私を、赤ちゃんごと溺愛で包む
プロローグ
「君は向日葵みたいに笑うよな」
さら、さらり、と大切な女性の髪を梳きながら俺は言う。愛おしい人──夏乃子。
「向日葵?」
夏乃子が不思議そうに俺を見て聞き返す。
黒い髪が真っ白なシーツに散らばっている。
そっと指で梳く。彼女の匂いがする――。
白い肌がさきほどまでの情事の残り香のごとく血の色を透かす。それがまた信じられないほど艶っぽくて、欲情を煽った。
「周りを明るくする笑顔。見るたびに――そうだな、ときめく」
素直に言葉にすると、夏乃子は恥ずかしいのか頬を朱に染めた。
愛おしい、と思う。
全ての瞬間を録画しておきたい――実際、スマートフォンのアルバムは彼女のさまざまな表情でいっぱいだった。
俺だけが、彼女のことを知っていたい。独占したい。
けれど――まだ彼女を、本当に手に入れたわけではないのはわかっている。
だから。
……最低だけれど。
『俺に着いてきて欲しい』なんてプロポーズじみた言葉を吐いた。いや、プロポーズなんてものじゃない。
もはや懇願だった。
夏乃子と離れるなんて、気が狂いそうだった。だから――避妊をしなかった。
孕めばいいと思った。
そうすれば、君は俺のものになる。
横で笑っていて欲しい。
好きにさせてみせるから。
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