エリート外交官は別れを選んだ私を、赤ちゃんごと溺愛で包む
その後も綾城さんからはよくお誘いがあり、何度も「デート」に出かけた。もっとも、このとき彼のほうに私への恋愛感情があったかは不明だ。
「君以外に日本人の友達がいないんだ」
よく彼はそう言って私を色々なところに連れて行ってくれた。待ち合わせはいつも、毎週土曜日、いつもの図書館。
もっとも、私のほうはいつのまにかほのかなときめきに近い感情を抱くようになっていた。
それはまだ、はっきりと恋を形作るものではなかったのだけれど――
その、何度目かの「デート」でお茶に誘われたとき、私は思い切って口にしたことがあった。季節はというと、真夏から翌年の春へと移り変わっていた。
「……っ、あの、お礼になにかしたいのですが」
綾城さんはキョトンと私を見る。彼の手には艶消しされた白磁のティーカップ。本物のアンティークだ。中華風の意匠なのは、かつて――十八世紀ごろ――流行したシノワズリの影響だろう。小文字表記でchinaは陶磁器を意味するくらいだ。
「さっきの美術館でも、入館料からなにから持っていただきました。それにここのお食事代だって」
私は眉を下げる。
誘われるたびに心苦しくなり、なんとかお金を作ろうと日本から持ってきていた本や服を売ったけれど、雀の涙ほどの金額にしかならなかった。
――そうして作ったお金も結局、受け取ってはもらえなかったのだけれど。
「お返ししたいのですが、その、あまり持ち合わせがなくて……なにかします。なにかというか、なんでも」