エリート外交官は別れを選んだ私を、赤ちゃんごと溺愛で包む

 そこからは――勢い、のようなものだったと思う。
 私は恋ゆえに。

 彼は……なんだろう、興奮だとか、緊張だとか、そんなものだろうと思った。そういえば男の人は戦うときに性的に興奮するとか、どこかで読んだ気もする。

 だから、彼の家で丁寧にベッドに横たえられたとき――私は拒まなかった。

 だって好きだから。

 いっときの思い出でも、勢いでも、興奮を鎮めるためのものでも良かった。

 ただ抱かれるならば、初めてを捧げるならば、彼が良かった。

「んっ……ふう、っ」
 初めてのキスは、息の仕方も分からない。
 口の中が蹂躙されていく――舌と舌が絡む。彼の舌の、触感と味。別の生き物のような硬くて柔らかなそれ。絡み合ったまま誘い出されて、甘噛みされて。

「ん、ふぁっ」

 彼の腕を、強く強く掴む。そうしなければ、怒涛のような感情に、悦楽に、飲み込まれてしまう。そうして壊れて流されて、戻ってこれなくなる。そんな予感が下肢をわななかせた。
 子宮の場所が、切ないほど分かる。
 自分という人間が、こんなに本能に従順だと思わなかった。

「夏乃子」

 唇を離した綾城さんが、私の名前を呼ぶ。掠れた、熱い声だった。綾城さん、呼び返そうとしたとき、綾城さんが私の耳殻を食む。そうして脳を揺らす微かな声で言った。

「違うだろ」

 彼は繊細な飴細工でも舐めるがごとく、耳の溝に舌を動かす。

「綾城さん、じゃない」

 頭の芯がじんわり、とほのかに痺れる。
 自然に彼の名前を呼んだ――「勇梧さん」。
 耳元で、彼が微かに笑う気配。同時に抱きしめられて、そのまま首筋を舐められた。

「ゃ、あ……っ」
「本当は」

 はあ、と熱い息を吐きながら勇梧さんは言う。

「こんなこと、するつもりなかったんだ。いきなり押し倒すなんて」
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