エリート外交官は別れを選んだ私を、赤ちゃんごと溺愛で包む
「……お姉さんは、いますか」
「姉? いえ、私はひとりっ子です」
「従姉なんかもいない?」
「いませんけど」
きょとん、と彼女が俺を見る。
苛つきが全身を襲った。理性では分かっている。きっと他人の空似だ、夏乃子に会いたい気持ちが暴走して、勝手に血縁だと思い込んでいるに過ぎない、と。
けれど本能が叫ぶ。そこまで面差しを同じくしておいて、赤の他人なわけがないだろう……!
俺は頭を回転させる。この際、本能に従ってララ嬢が夏乃子の血縁だと仮定しよう。なおかつララ嬢が本当になにも知らないとする。しかし、彼女の母親ならばなにか知っている可能性があるのではないか。
「――確か、伯爵家にはターナーの絵が所蔵されていましたね? ウィリアム・ターナー」
「あ、わっ、ご存知なのですね。そうなのです、父が絵画の蒐集家で」
「良ければ近々、一度見学させていただきたいのですが……お忙しいですよね?」
ララ嬢はぶんぶんと首を振る。恋人がいるというのに、俺に抱きつかんばかりで値踏みされているのを感じる。領事の息子とはいえ「親の七光り」とこっそり噂されている現在の恋人と、おそらくは彼女のお眼鏡にかなってしまったらしい俺とを。