エリート外交官は別れを選んだ私を、赤ちゃんごと溺愛で包む

 日本。
 夏乃子もまた、日本にいるのか?
 問い正したかったけれど、まだ早い、と堪える。誤魔化されて口を噤まれてはたまらない。

「ご主人はご心配ではないのですか」
「さあ……滅多に帰宅もしませんからね。忙しい人で」
「あ、あのっ。それより綾城さん、夕食の予定は? よければうちで。あたし、日本料理得意なんです!」

 ララが会話に割り込んできて俺を見つめる。もはや彼女に「嬢」なんてつけたくもなかった。俺は「本当に残念なのですが」と心にもない言葉を口にする。

「このあと、約束が」
「そうなのですか……」
「あ、それではまた、後日に。こちらに駐在されるのですよね?」

 俺は笑うのを我慢する。あくまで出張で、一週間で帰国するのだと伝えたはずだけれど――こいつらは、自分達の聞きたいようにしか言葉を聞かない上、都合の良いように解釈するパターンの人間らしい。

「いえ、出張で来ておりますので。週明けには帰国します」
「ええっ、そんな。ララ、寂しい……せっかく綾城さんと仲良くなれたのに」

 なれてねえよ。
 舌打ちを耐えて微笑を湛える。

「また連絡させていただきます」

 夏乃子のことを知るために。
 けれど俺の本心なんて知らないララは、うっとりと俺を見て微笑み返してくる。
 ……その得意げな鼻っ柱を殴りつけたらどんな顔をするんだろう?
 ついそんなことまで考えてしまいつつ、俺はタウンハウスを辞したのだった。
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