エリート外交官は別れを選んだ私を、赤ちゃんごと溺愛で包む

 思わず低く笑う。
 庇護欲の中に、確かにあるサディステックな感情は、彼女が愛おしすぎるから。
 俺の手で乱れていくのが、たまらなく嬉しいから。
 耳の後ろを舐めると、夏乃子が戸惑いを絡ませた吐息を吐く。

「そ、んなところ……っ」
「もっとすごいところまで舐めたのに?」

 耳元で告げると、面白いほど夏乃子の耳朶が赤く染まる。そこを甘く噛み、ゆっくりと耳殻を舌で舐める。

「なあ夏乃子、どこが一番舐められて恥ずかしかった?」

 いま彼女はどんな顔をしているんだろう?
 好きな子をいじめてしまうなんて、自分にそんな子供じみたところがあるなんて思ってもみなかった。

 腕をついて顔を覗き込むと、美しい瞳にうるうると涙を湛え、夏乃子は言う。

勇梧(ゆうご)さんの、いじわる」

 心臓がわななき、蕩けて消えた、かと思った――可愛すぎる。だめだ。

「好きだ、愛してる」

 反射のようにそう告げて、彼女の口にむしゃぶりつく。

「んっ、んぁ、っ、勇梧さん……っ」

 キスの合間に、必死に息をしつつ俺を呼ぶ夏乃子。

「なあ、覚えてるか夏乃子――最初に会ったとき」

 レストランでウェイトレスをしていた夏乃子。

「いらっしゃいませ、って笑ったよな。なんて綺麗な人なんだろうと思った。いつだって一生懸命で――小さな子供が吐いてしまったとき、嫌な顔ひとつせず片付けて、向日葵みたいな笑顔で安心させてた」

 夏乃子が熱い息を吐き出す。

「どんなに嫌なことがあっても、君の笑顔を見ると幸せになれた。恋してると気がついてからはもうダメだった。気がついたら君のことを考えてる。愛おしくて、好きで、苦しくて――」


 絶対に自分のものにしなくてはと、強く思った。だから、ああ、俺は。


「俺のものになれ」


 誰に謗(そし)られても、どう詰(なじ)られても構わない。

 彼女が手に入るなら――。

 ゆっくりと、彼女の中に入っていく。
 最低な俺を、どうか愛して、夏乃子。
 俺の全てを、君に捧げるから。
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