エリート外交官は別れを選んだ私を、赤ちゃんごと溺愛で包む
頭を殴られたかと思った。
突きつけられた現実にくらくらする。俺が選ばれなかったことくらい、分かっていたのに。
「……でもそのときは、まだ男か女か分からないと言っていたけれど」
続いた言葉に顔を上げる。
……男か女か分からない?
「ごめんな、ええと、あんた名前は」
「……綾城だ。綾城勇梧」
「ユーゴ。カノコがあんたに知らせてないと知っていたら、オレはロンドン中探して教えてやってたよ」
「それは……」
呼吸が浅い。
思考が、ひとつの答えに辿り着こうとしていた。
「責任取れって」
「夏乃子はどこにいるんだ!?」
俺はリアムに掴みかからんばかりに詰め寄る。
「お願いだ、教えてくれ――夏乃子は元気なのか」
言葉を詰まらせながら、続けた。
「子供は元気に、産まれたのか」
言葉が震える。
それだけが知りたい。夏乃子は、子供は、ふたりは、無事なのか? 幸せに暮らしているのか?
会いたい。
謝りたい。
あのときの浅慮が、君が消えた理由なのか!
愛していると伝えたい。
なにも知らずのうのうと生きていた俺を君が赦してくれるのならば、これからはずっとそばにいたい――。
「……見るか?」
考える間もなく、頷く。
「近くに住んでいるのか?」
「残念ながら」
そう言って彼はスマートフォンを取り出した。すい、と操作して俺に画面を向ける――そこには産まれたばかりの赤ん坊がいた。
「男の子だってさ。顔立ちはユーゴ、あんたにそっくりだよ」
「……男の子」
渡されたスマートフォンを握りしめ、ただ小さくまだしわくちゃの新生児の姿を見つめる。
嬰児の身体を抱くその嫋やかな手には確かな見覚え――最愛の人のもの。夏乃子。
「泣くなよ」
リアムが背中を叩く。ぼたぼたと画面に涙が落ちた。
「どこに住んでいるんだ? いまから会いにいく」