エリート外交官は別れを選んだ私を、赤ちゃんごと溺愛で包む
下手にあの母親たちを刺激するわけにもいかなくなった俺は、大学の先輩に頼ることにした。蛇の道は蛇。先輩は警察庁に勤務していた。
『探すのは構わないが、個人情報を明かすわけにはいかない。やれる範囲では協力してやる』
約束を取り付け、自分でも夏乃子を探してはじめて一ヶ月。
手がかりは、なにも得られなかった。
そろそろ本気でパスポート情報に当たらなければならないかもしれない。当然不正に当たる。バレれば懲戒処分間違いないけれど、代償として夏乃子の行方が分かるならば安いものじゃないか?
そう思っていた矢先、なぜかララから連絡が来た。
「誕生日パーティー……?」
まだロンドンにいると思っているのかあのドグサレクソ……と、リアムの口調が移ったかと苦笑しつつ文面を読むと、意外なことにララは東京にいるのだと書かれていた。先週から東京の大学に留学してきたらしい。
「……まさか俺を追いかけてきた、なんてことはないよな」
さすがにそんなことはないだろう、と一瞬浮かんだ考えを否定しつつ、参加するとメールを返した。
もしかしたら、夏乃子が来るかもしれない。
それは招待客としてではなく、メイドのような扱いなのだろうけれど、でも――。
しかし俺の思惑とは外れ、パーティーに夏乃子の姿は見当たらなかった。
「これ、ぜーんぶララが作ったんです」
「ララちゃんすごーい」
なんの知り合いだか知らないが品のない人種に囲まれ上機嫌なララに駅前で適当に買った花束を渡せば、大袈裟なほど喜んだ。
しまった、花にしなければ良かった。
夏乃子にだって渡したことがなかったのに――舌打ちしそうだった。
けれど角を立てないために手を伸ばした料理を食べて目を瞠る。
「わ、美味しかったですか? 腕に寄りをかけて――」
ララを無視して室内を見回す。
どこだ? どこに……。
これを作ったのは夏乃子だ。間違いなく。
夏乃子に会った最後の日、彼女が作ってくれたプディングだった。