エリート外交官は別れを選んだ私を、赤ちゃんごと溺愛で包む
すると、おばあさまの携帯がまた震えた。おばあさまの眉間の皺の寄りようで、それがララからのものだと分かる。
「一度出てみては? トリクシー」
おじいちゃんの言葉に、しぶしぶといった体でおばあさまは通話に出た。
「なあに、ララ。……ええ久しぶりね。今? トーキョーの知り合いの家よ。え? 誕生日パーティー? なんですって? ちょっと、切らないで、ララ! ララ……もう」
ため息をつきながら、おばあさまはふたつ折りの携帯をぱちんと閉じる。
「あの子、こちらで誕生日パーティーをするんですって。わたくしとカノコ、あなたも来てと」
「わ、私もですか? っていうか、まだ来日して日も浅いのに、パーティー?」
「どうせあの碌(ろく)でもないインターネットの友達を招待するのでしょ?」
スマートフォンすら持っていなかったロンドン時代の私は知らなかったのだけれどララは何万人ものフォロワーがいる、いわゆるインフルエンサーというやつらしい。伝統ある英国貴族のご令嬢、その華やかな暮らしをSNSで発信しているとのこと。
ロンドンでも、たまに熱心なフォロワーや同じく有名インフルエンサーを集めてパーティーをしていたらしい。
私はただの友達としか聞いておらず、その準備や料理を担当していたのだけれど、パーティーが始まる頃には自分の部屋から出ないように厳命されていたから、どんなどんちゃん騒ぎがあったかは知らない。ただそのあたりの子供を放置してもこうはならないでしょ、と思ってしまうほどに散らかった家の掃除をこなすだけで――。
正直、落ちている使用済みのコンドームを見たときは吐きそうになった。一体なにをしていたのか、想像もしたくない……。
「……なるほど、夏乃子をまた働かせる気なんだな。招待ではなく」
「そう。わたくしを招待したのは、単に『伯爵未亡人』という格が欲しいだけ。本当の伯爵令嬢なのだとアピールしたいのでしょ」