エリート外交官は別れを選んだ私を、赤ちゃんごと溺愛で包む
温かな家族に包まれて、次第に心も回復してきたその僅か二日後。
嵐のようなインターフォンに何事かと引き違いの玄関戸をからからと開いてみれば、門扉の向こうに人が佇んでいた。
真夏の太陽の下。植えられた向日葵が、熱気を含む風に揺れる。黄金の花びら――。蝉が、鳴いている。
私は呼吸さえできない。いや、仕方を忘れた。
「夏乃子……!」
愛おしい人の声だった。
ばくばくと心臓が脈を刻む。細胞のひとつひとつが、彼が目の前にいることを喜んでいる。――勇梧さん!
「なん、で……」
玄関戸に寄りかかり、これが夏の蜃気楼じゃないのかと訝しむ私に向かって、彼はまっすぐ歩いて来る。
そうしてかき抱かれた。
「夏乃子」
大好きな体温だった。
幻なんかじゃなく、現実――!
「見つけた……!」
家の奥から飛び出てきたおじいちゃんが、なにかを言いかけて止める。私は勇梧さんの逞しい胸板に顔を押し付けられて、彼がどんな顔をしているか分からない。ただ、信じられないほどに早鐘を打つ彼の心音を聴いていた。抱きしめる腕の力強さを感じていた。
目の奥が、ひたすらに熱かった。