エリート外交官は別れを選んだ私を、赤ちゃんごと溺愛で包む
夏乃子に言われ、車をスロープに乗せる。かたん、かたん、と次々にスロープを走り抜け、あっという間に下まで行く。
ケイゴが自慢げに俺を覗き込む。
「買ってもらったばかりなので自慢したかったのかと……」
胸がきゅんとした。なんだそれ、なんて可愛い。つい抱きしめると、素直にケイゴは俺の膝に座った。
「いきなり懐いてるじゃないか。分かるもんなんだろうな」
筒井さんが言う。
「父親だって」
「おじいちゃん!」
「本当のことだろう。夏乃子、意地を張るのはよしなさい」
「でも……」
夏乃子が俯く。その横で、筒井さんが「ところで」と口を開いた。
「徳重警部……いや、今頃はもう警視か。お元気ですかな」
俺はこっそりと舌を巻く。
さすが元刑事。できる人だと徳重さんから聞いてはいたが、俺を見て、ある程度の事情を推察したのだろう。
「元気でした」
「そうか、それは良かった。いやなに、昔、下につかせてもらってたことがありましてね。つい先日、知人が訪ねるからよろしくとは連絡があったのですが。そうか、まさかケイゴの父親とは思わなかったな」
苦笑しつつ彼は胡麻塩の顎を撫でた。
「申し訳ありません、勝手に身辺調査のようなことを」
「いやいや、結構結構。孫娘の幸せのためですからな」
「……おじいちゃん、私、結婚しないよ」
頑なに夏乃子は言う。
「好きじゃない。勇梧さんのことなんか好きじゃないから、帰ってください」