エリート外交官は別れを選んだ私を、赤ちゃんごと溺愛で包む

 駐車場から水族館へ向かう道すがら、私はようやく言いたいことがまとまった。
 勇梧さんを見上げ、名前を呼んでから立ち止まる。

「はっきり言います。勇梧さん、責任感じてるだけです」

 勇梧さんが立ち止まり、眉を上げて私を見る。

「前も言いましたけど、認知を求めたり、養育費を求めたりしません。私が勝手に産んだだけ。あの子が生まれてきてくれただけで幸せなんです」
「夏乃子はいくつか勘違いしてるな」

 勇梧さんは平坦な声でそう言って微笑んだ。

「勘違い?」
「ひとつ、養育費は君のためのお金じゃない。慶梧のためのものなんだから君に断る権利はない」
「……あ」
「ふたつ、君が勝手に産んだんじゃない。俺が産ませた――わざと避妊しなかった」
「え」

 彼の顔をまじまじと見つめる。


 わざと……?



「今から言うことを聞いて、腹が立ったら殴っていい」

 そう言い置いて、勇梧さんは私の手を取り歩き出す。
 水族館とは別の方向、もう海の家も取り壊しが始まっている海水浴場の隣を抜け、江ノ島が見える木製の桟橋のようになっている遊歩道をゆっくりと歩く。

 私は無言でそれについていった。
 腹が立ったら殴っていい……?
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