エリート外交官は別れを選んだ私を、赤ちゃんごと溺愛で包む

「私……は……」
「気づいたか? 夏乃子」

 勇梧さんが労わるように言った。

「君の自尊心を傷つけたのは誰だ? 結婚なんて個人の問題に、相応しいとか相応しくないだとか、そんなことを考えさせたのは」

 私は両手で口を抑えた。
 おじいちゃんの言葉を思いだす――『いつからお前はそんなに卑屈になった?』


 八年だ。
 私にとっては、長い八年だった。



 考え方を、書き換えられた。私が劣った人間だと、貴族の血を引かない「劣等種」だと、学のない劣った人間だと、自尊心を削るたびにそこへ植え付けていったのだ。

 お母さんと、ララが。


「あ……」
「辛かったな」

 ぎゅ、と抱きしめられる。

「苦しかったな。よく耐えた――ごめん、ロンドンで気づいてやれなくて。守ってやれなくて、ごめん」

 私はぶんぶんと頭を振る。言葉は出ない。代わりに瞳から涙が零れ落ちて止まらない。
 そっか、私、傷ついてたんだ。
 ぐちゃぐちゃになってたんだ。

「なあ夏乃子、支えさせてくれないか。君が心を取り戻すのを」

 私の頭に頬擦りしながら、勇梧さんは続けた。

「そばにいさせてくれ。必ず守るから」 

 穏やかな低い声で勇梧さんが囁く。
 私はうまく返事ができない。
 だって今度は、こんな卑屈な人間が勇梧さんのそばにいていいのか――。

 それこそ卑屈な考えだと分かっているのに、壊れてしまった自尊心は、そんな考えを打ち消してくれない。
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