エリート外交官は別れを選んだ私を、赤ちゃんごと溺愛で包む
考えれば考えるほど、自分の浅慮が嫌になって、水族館を出たところで泣いてしまう。
「夏乃子?」
おろおろと勇梧さんが私を引き寄せて顔を覗き込む。
「どうした、なにが嫌なんだ? 教えてくれ」
「……自分が嫌です」
思わずしゃくりあげながら私は言う。
「私、あなたから慶梧の赤ちゃん時代を奪ってしまったんだなって」
今もまだ、自分が彼に相応しいとは思えていない。彼にとって、私がそばにいるのが正しいとは思わない。けれど少なくとも、あのとき私が逃げなければ、彼は慶梧の成長を見ることができたはずなのだ。
「……慶梧、もう赤ちゃんじゃないのか」
びっくりした声で勇梧さんは言った。私は首を傾げた。
「えっ、と、はい。一歳を過ぎたので」
「小さくてぷくぷく可愛いからまだ赤ん坊だと思ってた」
「ずいぶん大きくなったんです」
ふむ、と勇梧さんは私の背中を撫でながら穏やかな声で言う。
「大変だったよな」
「……え?」
「可愛いけど、赤ん坊って大変なんだろ? 頑張ってくれてありがとう。でも」
こつん、とおでこを合わせて勇梧さんは言う。
「これからは一緒に頑張らせて欲しい」
ぽろ、と涙が溢れた。
ごめんなさい、と言わせてもらえない。その前に唇が塞がれた。
彼はひと言だって私を責めなかった。
「夏乃子――もう少し、ふたりだけでいたい」
そっと囁かれた、熱を持った懇願――私は拒否なんてできなかった。