エリート外交官は別れを選んだ私を、赤ちゃんごと溺愛で包む
疲れ果てた夏乃子を車に乗せ、家まで送ると慶梧がとてとてと可愛い足音を立てながら抱きついてきた。
「ママ!」
夏乃子がホッとしたように慶梧を抱き上げる。ぬいぐるみを渡すと、ギュウッと抱きしめて楽しげに笑う。
胸がかきむしられるような愛おしさ、なにがなんでも守ってやらなくてはと思う愛おしさ――夏乃子に感じているものと、近いようで違う。
愛にもいくつか種類があるのだと、ようやく知ったところだった。
「おかえり」
筒井さんに頭を下げ「お邪魔します」と玄関に上がる。ふ、と筒井さんが目を細めた。
「ん? どうかしましたか……」
「いや、他人行儀だなと」
その言葉に目を瞠る。
「じきに家族になるんだから――いや、家族なんだから。『ただいま』とかでいいんじゃないか? そうだろう、夏乃子」
筒井さんの言葉に、慶梧を抱いたままの夏乃子がほんのりと頬を染め、こくんと頷いた。
頷いてくれた。
思わず慶梧ごと彼女を抱きしめる。
きょとんとした慶梧と目が合う。遊んでいると思ったのか、彼は「キャッ」と小さな子供特有の高い声で笑った。
夏乃子と目が合う。
少し潤んだ瞳が柔らかく細められて、きゅっと胸が痛んだ。幸せな痛みに、そっと彼女の頭に頬を寄せる。
「晩御飯はまだよね?」
奥から出てきたトリクシーさんの言葉に頷くと「食べていきなさいな」と微笑まれた。彼女に関しては、つい先日、『いつまでよそよそしい呼び方なの』と怒られ、愛称で呼ぶようになっていた。