エリート外交官は別れを選んだ私を、赤ちゃんごと溺愛で包む
素直に「そうだ」と言えないのは、まだ私の感情がちゃんと回復していないから――。
分かってるのに。
勇梧さんは私を愛してて、慶梧を大切にしてて、そばにいたがってくれている。
……それなのに。
私も素直に「あなたを愛してる」と返せないのは、言おうとするたびフラッシュバックする虐げられた記憶のせいだった。
私は劣っていて、誰も私のことを必要となんかしてなくて……。
そんな、卑屈な感情がまだ頭の中に居座っていた。
でも少しずつ、それは薄れていっている。
それは勇梧さんが忍耐強くそばで支えてくれているから――。
「……そうなると、わたくし、どうしようかしら」
おばあさまがため息をつく。
「新婚夫婦の家庭に居候するのもね。かと言って、ここには居づらいし」
「……いたらいいでしょう」
ふ、と庭のほうから声がした。
おじいちゃんが慶梧を抱いて立っている。
おばあさまが苦笑した。
「いいえ、そんなわけには」
「なら言い方を変えます。オレがいてほしいと思っているから――トリクシー」
おばあさまが目を瞠る。
「贅沢な暮らしはさせられないけれど――お互いの残り少ない時間、一緒に暮らしませんか」
おばあさまとおじいちゃんの顔を交互に見遣る。なぜか私が一番ドキドキしているかも!
おばあさまは苦笑したあと「あら」と言って目を伏せた。耳まで真っ赤だ。
「いいのかしら……」
「おばあさま」
私はそっとおばあさまの手を取る。
「このまま日本で、慶梧の成長を見守ってはくれませんか?」
おばあさまは目を瞬き、それからおじいちゃんのほうを見てゆっくりと頷いた。