エリート外交官は別れを選んだ私を、赤ちゃんごと溺愛で包む
頭がくらくらして、視界が狭まっていく──
けれど。
「マーマ?」
廊下の一番奥、うっすら開いたドアを押して、慶梧が顔を出した。サッと血の気が引く――。
「慶梧!」
私が叫ぶのと、ララがブーツの踵を鳴らして慶梧の元に駆け寄るのとは同時だった。悲鳴をあげる私を無視してララは暴れる慶梧を無理矢理抱き上げようとする。
「やめ、その子を離して、なにをするの」
「なにって……。ああもう、暴れないで慶ちゃーん? 今日からあたしがあなたのママでちゅよ〜」
私は廊下を走りながら、ララがなにを言っているのか必死で理解しようとする。
「ママー! ママ! うー! ママ!」
状況に混乱したのか、慶梧がララの手を振り払い泣きながら私を呼ぶ。
「ママはあたしだって! 大丈夫、すぐに慣れるわ」
「そうそう慶梧ちゃん、あたしが大きいママですよ〜」
母が慶梧を覗き込む。そうして手を伸ばした――すんでのところで、私は慶梧を抱っこして廊下の壁に背を預けた。
全身が冷や汗でびっしょりだ。
震えが止まらない。
でも、私、私がこの子を守らないと!
この子だけは、奪われてはいけない!
「なにしてるの夏乃子、慶梧をララに返しなさい」
「か、返すって……どういう」
息を吸って、吐いて、続けた。
「この子は私が産んだ子です……!」