エリート外交官は別れを選んだ私を、赤ちゃんごと溺愛で包む
「とある人を成田まで迎えに行っていて――」
「あら綾城さん」
母が微笑み、言う。
「綾城さんからもその子に言ってやってくださらないかしら? 子供を素直にあたしたちに渡すように」
「そうなんです勇梧さん、そこの人があたしたちの邪魔をするんです」
ララがシナを作る。
「その人のせいで、あたしに告白できないんですよね? ごめんなさい。これは家族の問題だから、すぐに解決しますから」
「ほら迷惑かけないの夏乃子、子供を渡して謝りなさい」
「そうよ、悪いことをしたのなら『ごめんなさい』と言って、許してもらうのを待つべきよ!」
「その点、あたしたちは心が広いわ。さあ」
「許してあげるから、子供を寄越しなさい」
「さあ」
「ほら」
母とララの声が、だんだんとシンクロしてくる――頭の中でぐわんぐわんと響いた。ぐっと勇梧さんが強く抱きしめてくれて、はっとする。彼がふたりを睥睨し、低く息を吐き出した。
「言いたいことはそれで全部か?」
「え? 勇梧さん?」
ララがこてん、と首を傾げる。
「いいか、はっきりと言う。俺は夏乃子との子供が欲しくて彼女を孕ませた」
母とララがぽかん、とする。
聞いたことのない言葉を聞いているような表情だった。
「ララ、君に近づいたのは夏乃子の情報を得るためだった。最愛の人がどこにいるのか、妹の君から聞き出そうとした。無駄な努力だったけれど」
「へ?」
本気で分からない、という顔でララが「勇梧さん」と目を瞬く。そこに母が割って入った。
「綾城さん! 最愛の人、ってララのことですよね?」
「違います。どこをどう聞いたらそう理解できるのですか? 夏乃子のことです。先週ですが、既に俺の親とも会ってもらっています」
「ど、どういう……夏乃子、あんたって子は! これ以上周りを不幸にしてどうするの!」
母がいきりたつ。
「綾城さん、冷静になってください。どう考えたって、この子はあなたにふさわしくない」
勇梧さんがため息をつき、小声で続けた。
「あー、こいつら蹴りまわしたい……」