エリート外交官は別れを選んだ私を、赤ちゃんごと溺愛で包む
イギリスに来てすぐに気がついた。
何度も何度も否定したけれど、母の愛情は一ミリだって私のほうには向いていなかった。
その全てはララに与えられていた。
私は――母にとって、憎らしい娘。
『あなたさえいなければ、すぐにでも彼と一緒になれたのに! あたしの人生をさんざん邪魔したんだから、少しは償ってよ!』
イギリスに来てすぐに知ったのは、母と義父の恋愛関係が、実父の生前に始まっていたということ。
昔からイギリスに憧れのある母はハーフの父と付き合っていたが、伯爵である義父と出会ってから彼に惹かれ、父から彼に乗り換えようとしたのだと思う。
私がお腹にいなければ、すぐにでも義父の元に行きたかった母。だけれど『私のために』母は義父と一度別れた。
『苦しかったわ。断腸の思い、ってこういうことだと思った――でもあの男が死んで、こうして彼と結ばれ、この子を産んだの。真実の愛の子、ララ』
ララを幸せそうに見つめながら、母はそう歌うようにそう言った。
でも母の理想の新生活は長く続かなかった。おばあさまが病気になり、家計も火の車。そこで遠く東の国へ捨ててきた娘のことを、母はようやく思い出した。
自分の人生を邪魔した償いをさせるために。
そうして私はただ無料の介護係として手元に置かれた。
いや、介護だけじゃなく、掃除に洗濯、料理といった家事から、『生活費を入れてもらわないと』という理由で母の知り合いの日本食レストランでウェイトレスのアルバイトまで。
その給料も全て母のもの、となればさすがに気がつく。
……私は利用されているだけだって。
逃げようにもお金がない。
日本にいる祖父と連絡を取ることすら禁じられ、スマートフォンさえ持たせてもらえなかった。持たされた国内通話のみのフューチャーフォンは、ただ母とララからの呼び出しに応えるためだけのもの。
そもそも、祖父にどんな顔で助けを求められたというのだろう? ここに来るのを決めたのは、他でもない私なのだ。
十七歳だった私には、十分にその判断能力があったのに……。
母に会えた。頼ってもらえて嬉しかった。
おじいちゃんの経済的負担を減らしたかった。定年後も私の学費のために働こうとしていたおじいちゃん……。
ただ、それだけだったのだ。
それだけだったのに……。