誰もいないこの世界で、君だけがここにいた
「植村くん!」
「これから助っ人が来るからさ。とりあえず会おうぜ。ちょうどお前んちの近くで待ち合わせなんだよ」

 助っ人……?
 誰にせよ、今は人に会いたい気分なんかじゃない。
 このまま帰れると思ったのに。無残な髪の毛だって見せたのに。それでも呪いを解きたいの?
 役に立たない作戦とはいえ、勝手にアイディアを出し続けて。
 本人がこんなに苦しんでるのに、何を言ってもおかまいなし。
 なんでこんなに強引なのか理解できない。本当に、人の話を聞いてくれない。
 なんなの、この人……。
 散々嫌がったものの、結局引っ張られるままに電車に乗せられた。
 椅子に座ってからも、モヤモヤした感情は続く。一方で、植村くんは何事もなかったかのように、ほとんど独り言のような会話を繰り広げている。
 その時、ふと、前にも感じた疑問を思い出した。
 ……もしかしたら、植村くんはただの善意だけじゃなくて、何か理由があって私の呪いを解こうとしているんじゃないだろうか。
 だから、躍起になっている。私の呪いを解くことにこだわっている。
 たとえば、植村くんも誰かに自分のことを忘れられて、悲しい思いをした過去があるとか。
 困っている友達を助けられなかったことがあって、以来悩んでいる人を助けずにはいられないとか。
 他にも……そう。

〝ここって有名な場所だよな。なんだっけ。あ、勿忘(ワスレナ)の池か〟

 前に聞いた、あの言葉。
 植村くんは池の存在を知っていた。
 勿忘(ワスレナ)の池はこの近くに住む人にとって有名な場所だから、知ってても不思議ではないのだけど。植村くんのもとにも噂が届くくらい、植村くんは遠くない場所に住んでいるのだろうか。
 もしかしたら、植村くんも勿忘(ワスレナ)の池でお願いをしたことがあるのかもしれない。
 そして他の人と同様、願いは叶わなくて。
 なのに私の願いだけは特別に叶えられて。
 だから、私の例をヒントに、もう一度自分の願いを叶えてもらおうと調査しているんだったりして……。
 妄想がどんどんとおかしな方向にいっている間に、電車は私の家の最寄駅で止まった。
 駅を出ると、植村くんは迷うことなく通りを進み、目的地へと向かっていく。
 着いたのは、大人向けのコーヒーショップの前。とりあえずここで待つと言う植村くんに、私は考えながらも口を開く。

「……植村くん……」

 植村くんが私を見下ろす。

「なに」

 その鋭い視線を見つめ返しながら、ごくりと唾を呑み込んだ。
 何を言ってもしつこく呪いを解こうとする植村くん。
 その理由は、前に聞いた通り、本当に純粋な人助けの気持ちなのだろうか。
 それとも私の呪いを解きたい、本当の理由があるのだろうか。
 そんなこと、知ってどうなるというわけじゃないのだけど。もし、植村くんに何か他の狙いがあって私のそばにいるのだとしたら。
 その狙いが解消されれば、呪いを解こうとするのを諦めてくれる……?

「……あの。ちょっと気になったんだけど。植村くんって……勿忘(ワスレナ)の池で、願いを……」
「久しぶりねぇ、二人とも」
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