原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!
 男は立ち上がり、壁際に設えられた棚から酒瓶を取った。
 瓶口の栓を歯で抜き、ひとくち飲んだ。
 そしてロザリンドの周囲を歩きながら、それを撒いた。


 暖炉の炎の温もりだけでは凍える夜は越せないだろう、とシーズンを前に小屋の掃除をしてくれた優しい誰かの気遣いの酒だ。
 小屋を訪れる者の為に度数の高いアルコールを用意した心遣いが殺しの手伝いをするなど、その人は知る由もない。


「どっちがいいかな……
 生きたまま炎に焼かれるより、先に絞められた方が楽かもしれない」

「あっ、貴方の! 貴方のお名前を教えて!」

 暖炉の炎とロザリンドの頸を交互に眺めながら、独り言のように呟く男に、彼女は懸命に声をかけた。


 自分の名前を呼ばれると、
『コイツは壊していいモノではなくヒトなのだ』と相手に対しての意識が切り替わり。
 簡単には手が出し辛くなる、と以前テレビで観たか、本で読んだ様な気がしたからだ。

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