栞の恋(リメイク版)
…我ながらどうしたのだろう?と思う。
いつもどちらかというと、職場で男性と話すのも苦手な方なのに、初めて会った…それも名前もまだ知らないこの男性と、なぜか饒舌に話している自分に、少し驚き戸惑ってしまう。
『あっ!』
そこで、さっき本屋の店員にもう一つ頼まれた、サービスのしおりのことを思い出した。
『いけない、忘れちゃうとこでした。実はもう一つ、渡すものがあるんです』
『渡すもの?』
『ハイ、あの本屋さん、今サービスで、本のしおりがもらえるんですけど…』
ふと、もらったグリーンのしおりを手渡そうとして、自分が全色のしおりを持っていることを思い出し、鞄の中から集めたしおりの束を取り出すと、彼に向かって全部を広げて見せる。
『一枚、選んでください』
『良いの?』
『お好きな色をどうぞ』
そういうと、彼は思ったより慎重に選ぶそぶりをして、最終的に中央辺りにあったブルーのしおりを指さした。
『じゃ、このブルーをいただこうかな』
数あるカラフルなしおりの中から、真っ青なブルーのしおりを抜き取る。
もう一度彼にお礼を言われ、これで頼まれた自分の役目は終わってしまった。
正直、まだもう少し話をしていたい気持ちもあるのだけど、仕方ない。
『それじゃ、私はこれで…』
”失礼します”と、立ち去ろうとすると、何故か彼は、今手に取ったブルーのしおりをジッと見つめたまま、
『しおり?』
ポツリとつぶやいた。
思わず自分の名前を呼ばれたのかと勘違いし、ドキッとする。
もちろんそんなことなど、あるはずがない。
『君の名前』
『…え』
『栞っていうんだね』
驚いて、彼の持つしおりをよく見ると、それは書店で、今さっきもらった真っ新なブルーのしおりではなく、先日高橋さんに、ふざけて私の似顔絵と共に、【栞のしおり】とダジャレの書かれた、使用済みの“しおり”だった。
『やっ、すみませんっ、それ違うんです!それは、職場の先輩にいたずら書きされたもので、新品のはココにッ』
鞄から慌てて、真っ新な新しいブルーのしおりを取り出し差し出すが、彼は面白そうに持っていた【栞のしおり】を右手の人差し指と中指に挟むと、それを顔の横に掲げ、
『これで良いよ…っていうか、これが良い』
そうにやりと笑う。
おそらく5歳以上は上であると思われる目の前の男性が、急に悪戯好きの少年のように感じる。