栞の恋(リメイク版)
③現実的展開
店の入り口近くにある、長いレジカウンター。
通常は、等間隔に5つのレジが開いているのだけれど、平日のこの時間。
そのうちの手前の2つだけが、稼働している様子。
数名並んでいるレジ待ちの列の、最後尾に並ぶ。
…と、自分の前に並ぶ女子高生のその前に、先ほどの(油ギッシュじゃない方の)黒縁眼鏡さんが並んでいた。
ドキッ
先程は正面からの向かい合わせだったからか、なんとなく小柄な印象だったけれど、前の女子高生の頭上1個分近くは見えているので、実際のところは、決して低いわけではなさそう。
上は白い生成りのスタンドカラーのシャツに、ダークグレーの薄手のニットベスト。
下はブラックの細身のジーンズに、濃茶のモカシンシューズ。
少し緩いパーマがかかる黒髪に、例の太めの黒縁眼鏡。
やや血色の悪く見える色白な肌で、無精ひげが一見だらしない印象を与えるけれど、着ているものや身に着けている小物ののセンスの良さと清潔感が際立って、不快な感じはしない。
“平成の文学者”って感じね。
人物観察していると、手前の1番レジが空き、彼の番になる。
カウンターに乗せた本は、およそ10冊近くあるだろうか。
何気なく購入する本をチェックしてみると、特にジャンルの統一性はなく、文学書からSF小説、時代小説からアイドルが書いた自叙伝まである。
平日のこの時間に、比較的ラフな服で大量に本を購入。
いったい何をしている人なのだろう?
つい、財布を持つ左手の薬指に何もしていないことを確認してしまい、あわてて視線をそらす。
“どこ見てんのよ、私ったら”
もちろん、今時指輪をしていないからといって、独身ということではないのだろうけれど、なんとなく家庭を持っているような雰囲気はなかった。