かげろうの月
PTSD
        
尚哉は給料の3分の2を使えるようになってから、暫くは機嫌が良かったが、そう長くは続かなかった。

 会社で嫌なことがあったのか、それとも浮気相手の女と喧嘩でもしたのか、不機嫌なまま帰宅するなり、眉間に皺を寄せ赤鬼になり、
「何でオレの言った通りに出来ないんだ!」
「お前はバカだ!」
以前と同じセリフを大きな声で罵るように言った。
「オレの言った通り」って何んなの?
夫はいつも一方的で、ほとんど会話にもならないので、何に対して腹を立てているのか分からない。

 そうかと思えば、お酒を飲んで上機嫌で夜中に帰って来ては、「彩ちゃん、愛しているよ」と甘えるような声で、セックスを求めて来る。
抵抗すればまた赤鬼に豹変するかもしれないし、恐怖心から私は受け入れるしかない……。

 また別の日には、たまたま尚哉が帰って来た時に、陽斗は起きていて、何かが気に入らなくて床に座って泣いていた。
尚哉は帰って来るなり、「うるさい!」と言って、陽斗の背中を足で蹴ったのだ。
陽斗は訳が分からず、尚一層激しく泣き叫んだ。

 ついに、子供にまで暴力を振るうようになってしまったことへの恐怖で、
私は全身の力が抜けてしまった……。
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