かげろうの月
出産
1992年(平成4年)2月5日
私、彩子(29)と尚哉(29)との間に第一子が生まれた。
妊娠がわかって私達は婚姻届を出しに行って私は、楠 彩子(くすのき あやこ)になった。新しい名前にはまだ慣れないけど、この名前で新しい風が吹けばいいと思った。
妊娠がわかった時、私には戸惑いがあった。女性ならば皆持っていると思われている母性本能が私にはないからだ。
街中で見掛ける子供達は、自分の欲求が通らないと大声で泣き叫び、親を困らせているのを見るとイヤな気分になってくる。
子供は無邪気でいいなんて言うが、独身の時の私はその無邪気さが嫌だった。
このことは尚哉には話してなかった。女性としてダメな人間と思われてしまいそうで怖かったからだ。