かげろうの月
 母性本能がどんなものなのか分からないまま、そんな私の気持ちなんか無視するかのように、お腹はどんどん大きくなって行く。

 妊娠6ヶ月ぐらいになると、お腹の赤ちゃんはよく動くようになり、力強く足でお腹を蹴ったりもしてきた。
あぁー、ちゃんと成長しているんだなぁー、と実感できた。
少し嬉しくなってきた。

 小さな生命は私の胎盤を通して、栄養を吸収して、ひとつひとつの細胞が形成されていく。それは真っ新な細胞。
汚れた空気もなく、羊水の中で成長した胎児は、もしかしたら世の中で一番綺麗で神秘的なものなのかもしれない。

 まだ名無しの君はどんな姿で生まれて来るのだろう?
母体の羊水から出て、初めてこの世の空気に触れた時、君は驚いて「オギャー!」と声を上げる。
初めて対面する我が子を、私は愛おしく自分の分身であるかのように、胸一杯になるのだろうか……。

 テレビドラマでよく見る出産直後のお母さん達は、本当に幸せそうな顔をして、今生まれ来たばかりの赤ちゃんを抱いて、人生で最高のような笑顔を見せるシーンを思い出した。
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