かげろうの月
 私が入院していた産院に、尚哉は仕事帰りに毎日来てくれた。
 産院には同じ頃に生まれた5〜6人の赤ちゃんが、ベッドに寝かされている部屋を、ガラス越しに見ることが出来る。
それを見て尚哉は嬉しそうに言った。
「ボク達の赤ちゃんが、一番可愛いよ!」
「名前決めないとね」

 そう、私達はお腹の赤ちゃんは男の子と分かっていたので、『姓名判断』の本を買って読んだり、漢字の画数を調べたりして、幾つかの候補は上がっていたが、やはり赤ちゃんの顔を見てから決めよという結論だった。
 
 母子共に元気で無事に退院して自宅に戻った。
 育児は知らないことばかりで、育児書を片手に一喜一憂しながら、夫と二人で息子の陽斗(はると)を見守っていた。

 聞いてはいたが、やはり3時間置きの授乳は大変で、私の体力を奪っていった。
でも、安心しきった顔で一生懸命に母乳を飲む我が子を見ると、愛おしく思えてきた。
これが正しく母性本能というものなんだろうか。こうやって我が子と接していれば、自然と母性は目覚めて来るものなんだと分かって、安心したし、
嬉しかった。
 夫の尚哉も育児には協力的で、陽斗をお風呂に入れてくれたりして、私を助けてくれた。
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