これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
会話が途切れ、微妙な空気が流れる中で、徹也くんは左手を私の頭の上にポンと乗せた。
その手には、やはり昨日私が目にした指輪がつけられている。それに気づいて何だか内心モヤモヤする。

「……今日はまだ月曜日なんだし、早めに切り上げろよ」

そう言うと、カウンター越しに武志さんを呼び、会計のやり取りをした。連れの女性は徹也くんから少し離れた後ろに立って、会計が終わるのを待っているようだ。徹也くんは支払いの際、チラリとこちらを見て武志さんに何やら耳打ちをし、武志さんは心得たとばかりに頷いている。

会計の終わった二人が、店を出る後ろ姿を見送ることしかできなかった私たちは、カウンターに戻ってきた武志さんに衝撃なことを告げられた。
何と、私たちの分まで一緒に支払いを済ませてくれていると。自分たちの分は自分たちで払うと武志さんに告げても、「こういうときは、年長者の顔を立ててあげるものだよ」と言われ、私たちは何も言えなかった。

再び武志さんがカウンター奥へと姿を消すと、弘樹がポツリと呟いた。

「今のが徳井さんか……」

「うん、そう。まさかここで会うと思わなかった……てか、あの女の人誰だろう。私、あの人のこと知らないんだけど」

私の呟きに弘樹も同調する。

「普通なら、どんな立ち位置でもお互いの名前くらいは紹介するけどな」
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