これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
脳裏に美津子おばさんの声がリピートしている。お友達って、多分私と弘樹みたいな関係性なのかも知れないけど、それでもさすがにお泊まりはない。
私は鞄の中からスマホを取り出し、シャッター音の鳴らないカメラアプリを起動させると、二人の寝姿を写真に収めた。

二人で一夜を明かした証拠写真を撮影すると、私は二人を起こさずそっと部屋から出て、美津子おばさんには急用ができたからと言って徳井家を後にした。
美津子おばさんは私の様子がおかしいことに気づいて、徹也くんの部屋に行こうとしたけれど、私はそれを引き止めた。

徹也くんの家を後にした私は、武志さんの店に弘樹を呼び出すと、武志さんの姿が見えるボックス席に座った。

お昼の時間帯だから、お店は忙しそうだ。
オーダーを取りにきた武志さんに、アイスコーヒーと紅茶を頼むと、武志さんはその場を去った。
後ろ姿を見送る弘樹の顔が、途端にふにゃりと崩れる。それは、まるで恋する乙女そのものだ。
飲み物がくるまでに、私はついさっき目にしたことを弘樹に聞いてもらおうと口を開いた。

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