これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
弘樹は先に運ばれていたおしぼりでテーブルを拭き、坂下さんはカウンターに台拭きとタオルを借りに行った。

坂下さんと武志さんがタオルと台拭き、雑巾を手に戻ってくると、ようやく徹也くんも我に返った。

「ここは僕と白石くんが片付けるから、晶紀はトイレでスカート洗っておいで。放ってたら染みが取れなくなるぞ」

「そうよ、晶紀ちゃん。行きましょう」

私は坂下さんに促され、化粧室へと向かった。その際、坂下さんは大きな手提げ袋も一緒に持ち込んだ。

ベージュの生地に小花がプリントされたミディ丈のフレアスカートに、コーヒーが染み込んでしまっている。
武志さんから借りたタオルを濡らそうと洗面台に向かったその時だった。

「晶紀ちゃん、良かったらこのスカート穿いて」

坂下さんはそう言うと、自分が穿いていたスカートを脱ぎ、私に手渡した。

「は? いやいや、そんな! 坂下さん、ちょっと待って下さい……って……、ええっ!?」

「大丈夫、私も着替えるから」

坂下さんの格好を見て私は心の底から驚いた。
だって男性用のボクサーパンツを穿いている上に、股間が膨らんでいるのだ。

坂下さん、女性じゃないの!?
坂下さんは、化粧室に持ち込んだ袋の中から、洋服を取り出した。それは、明らかに()()()だ。

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