これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
「びっくりさせてごめんね。私、単に女装が趣味なの。早く着替えておいで」

驚いて固まる私を個室に押し込んだ。
言われるがまま、スカートを穿き替えて洗面所に戻ると、入れ替わりで今度は坂下さんが個室に入った。

汚れが目立たなくなるくらいまでスカートを洗っていると、個室から坂下さんが出てきた。
その出で立ちは、さっきまでの綺麗なお姉さんとはガラリと変わっている。

服装はカジュアルな装いで、長かった髪の毛は見る影もない。当たり前だけど、カツラをかぶっていたようだ。

「スカートの染み、取れた?」

咄嗟のことに、私は頷くことしかできない。
女装を解いた坂下さんは、さっきと雰囲気が全然違い、どこからどう見ても綺麗な男の人だ。
あまりの変わりように、二度見どころか三度見四度見してしまう。

「そんなにマジマジ見られると、なんか恥ずかしいな。そんなに違う?」

「全然別人みたいです。てっきり女の人だと思ってたから……」

私の言葉に満更でもなさそうだ。

「女の子からそう言ってもらえたら、女装は合格点だな。晶紀ちゃんありがとう」

坂下さんはそう言うと、鏡の前でカツラでぺったんこになった自身の髪型を手櫛で直し始めた。
その右手には、先ほどまであった指輪がない。

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