これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
「あのっ、指輪……」

私の言葉に、坂下さんは自身の右手を見て、何が言いたいかを察したようだ。

「ああ、アレね。一応虫除け。女装が趣味とはいえ、僕は男よりも女の子のほうが好きだからね。変な男に近寄られないようにって、徹也からもアドバイス受けてたんだ」

「徹也くんから……?」

「徹也の指輪も気になってるんでしょう?」

私が指輪の話をしたせいか、坂下さんには私の考えなんてお見通しのようだ。

「あとで本人から聞くといいよ。僕が余計なこと言ってもアレだからな。まぁ、晶紀ちゃんが心配することは何もないから安心しなよ。あ、濡れたスカートはこれに入れて。あ、スカート、サイズ合わないのは我慢してね」

そう言って、ビニール袋とそれを入れる紙袋を手渡された。それは自身のカツラを入れていたであろうものだった。
着替えたときに、靴も履き替えている。用意周到すぎて、驚きを通り越してしまう。

「お気遣いありがとうございます。ウエストが紐で調整できるから助かりました。ではこちら、遠慮なくお借りしますね」

坂下さんは私の返事に頷くと、一緒に化粧室を出て席に戻った。坂下さんの姿を見て、弘樹は驚きを隠せない。

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