ラスボス聖女に転生してしまいました~婚約破棄され破滅する運命なので、生き延びるため隣国で錬金術を極めます~
「ふうむ。なるほど、なるほど。いや、結構なことだな。命乞いをしないとは腐っても聖女ということか」

 私の態度を称賛するエルドラド殿下は満足そうに笑みを浮かべる。

 覚悟を決めましょう。ここで私が死んで平和になるならそれでよし。

 聖女になったときこの身をこの国の安寧(あんねい)に捧げると決めたのだ。

 魔王として死ぬより、聖女として私は死にたい。

「あまり痛くしないでください」

「ああ、任せてくれ。俺の剣戟(けんげき)なら一瞬で君のその首をはねることができる。怖がらなくても大丈夫。すぐに済ませるから。くっくっく」

 醜く顔を(ゆが)ませてエルドラド殿下は笑う。

 念願の英雄になれるという期待感からなのか。今の彼の顔は悪魔と比喩できるほど酷い有様であった。

(ごめん、シェリア。あなたともう一度ケーキを食べたかった)

 頬が冷たくなり、私は自分が泣いていることに気が付いた。

 やっぱり本心を言えば死にたくない。生きて平穏に暮らす未来を手にしたい。

 だけど、前世の知識も今世の知識も役に立たない。

 結局、どうしたらよいのかわからない私は死ぬことしか選べなかった……。

「ふはははははっ! 俺は君を殺して英雄に――」

「やめんか!」

「「――っ!?」」

 高笑いとともに剣を構え直した殿下が今まさに剣を振るおうとしたとき、怒鳴り声が牢獄に響き渡る。

 現れたのはエルドラドと同じく茶髪の壮年男性。

 このお方は……この国、フェネキス王国の頂点。アレクサンダー・フェネキス国王陛下……!

「父上! いえ、陛下! どうして俺を止めるのです!? 司教殿から聞いたはずです! この女は魔王の後継者なんですよ!」

「黙れ! こんな勝手を誰が許した! この馬鹿者!」

「ひぃっ!」

 陛下がエルドラド殿下を叱責すると、殿下はカランとサーベルを落として泣きそうな顔をする。

 どうやら英雄を目指して達人の領域まで剣の修行を積んだ彼も父親である陛下は怖いらしい。

 よかったのかどうかはわからないが、私の命は助かった。どうやら陛下は殿下と違って理知的な――。

「そう慌てるな、息子よ。この女にはまだ使い道がある。殺すには惜しい。くっくっくっ」

 凶悪な笑みを浮かべながら陛下は私の顔を見る。
< 10 / 32 >

この作品をシェア

pagetop