ラスボス聖女に転生してしまいました~婚約破棄され破滅する運命なので、生き延びるため隣国で錬金術を極めます~
 前言撤回。目の前にいる男はエルドラド殿下など及びもつかないほどの悪党だった。


 ◆


 本日は晴天。私の気分とは真逆で憎たらしいくらい鮮やかな青空が広がっている。

 投獄されてから半月足らず。私は両手を拘束されたまま巨大な馬が引く馬車に乗って何日もかけて隣国アルゲニア王国を目指して移動していた。

 この世界の馬車は魔道具で強化された車輪によって結構なスピードで移動可能だ。

 魔法と錬金術が存在するゲームの世界なので、前世の世界とはまた違う技術が発達しているのである。

 ゲームでは空飛ぶ船くらいまでは出てきたので、これくらいでは驚かない。

 前世の記憶にあるあの科学の発達した社会と照らし合わせても、それを超えるんじゃないかというアイテムが割と多いのだ。

(それにしても、まさかそんな経緯で隣国に送られていたとは思わなかったわね)

 ゲームのシナリオには描かれていない裏の事情を知って私は驚いた。

『陛下! 使い道と申しましても! 俺にはわかりかねます! 魔王を放っておくなど危険ではありませんか!』

 エルドラド殿下による処刑実行をすんでのところで止めた陛下。

 それが不服だった殿下は陛下に納得いかないと食ってかかる。

『魔王を倒す方法は古文書を解読すればわかるはずだと司教殿も言っている。それならば魔王としての力を活かして国益を得ようとワシは考えたのだ』

 国王陛下は両手を開いて大げさに振る舞いながら、野望を語る。

 私が魔王の後継者だったことがまるで幸運だったかのごとき言い回しにエルドラド殿下は怪訝(けげん)な顔つきになっていた。

『国益ですって!? 倒し方がわかったとて被害は出ます! 陛下がどんな策を考えているのか知りませぬが、魔王による被害を看過(かんか)できるほどのものとは思えません!』

 客観的に聞くとエルドラド殿下の主張のほうが真っ当だと思える。

 私は死にたくないが、国益について考えるなら殿下のようにすぐに殺そうと考えるのが普通だと思えたからだ。

 殿下の英雄願望は確かに身勝手で自己中心的なものであるが、それでも国民のためという大義名分の上で成り立っている。

 魔王が復活してしまったら必ずや民衆に被害が及ぶにも関わらず、それが国益になるとは私も理解できなかった。
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