ラスボス聖女に転生してしまいました~婚約破棄され破滅する運命なので、生き延びるため隣国で錬金術を極めます~
「一体、なにを仰りたいのかわかりません。殿下はどうしてこちらに?」

「英雄扱いされていた聖女が実は魔王の後継者だった。それだけでも聖女などに様々な役目を負わせるというやり方は欠陥がある」

 腰にかけたサーベルを抜いて鉄格子の前で上段に構える彼はなにやらブツブツと念仏のように持論を展開する。

 いや……、勝手に盛り上がっているけど全然話が(つか)めない。

 この方、そういうところが妹にも嫌われていたのよね……。

 ゲームの中でも屈指のイロモノキャラクターだった彼の挙動に私は困惑していた。

「この国に聖女はいらない。誰もが英雄になれる新しいシステムを俺は作るつもりだ」

「はぁ……」

「司教殿から話を聞いたよ。リルア、君が魔王の後継者として選ばれ、その血に流れている闇の力が完全に覚醒すると新たな魔王になることを」

 この世界において魔王という存在は非常に厄介な災厄であった。

 幾度殺しても、その魂が輪廻(りんね)して新たな依代(よりしろ)を見つけ、蘇る永劫回帰(レインカネーション)という能力。そのせいで世界は何度も魔王によって壊滅的な被害を被っている。

「君は世界の敵になる。そんな女と婚約していたこと自体が俺の人生の汚点だ。よって俺は君との婚約を破棄し……」

「…………」

「君を殺す」

 エルドラド殿下は明らかな殺気を放ちながら、強い言葉を使う。

 婚約破棄までなら理解できるが問答無用に殺しに来るとは想定外であった。

(この方が私を愛していないのは知っていたわ)

 それでもショックである。殺すと言われれば誰だってそう感じるだろう。

「君を殺せば、俺は世界を救った英雄になれる! そして俺はアピールするのさ! この国に聖女はいらない! 結界も癒やしも別のシステムで代用できる、と!」

 英雄になりたい。それはエルドラド殿下の悲願である。

 つい一昨年前までここフェネキス王国は隣国であるアルゲニア王国と戦争をしていた。

 エルドラド殿下は自ら武勲(ぶくん)を立てて英雄になるのだと、王子ながら騎士として戦地に向かいたいと志願していたのだ。

 しかしながら、その願いは叶わなかった。

 両国は休戦協定を結び、和平の方向に(かじ)を切ったからである。

 その頃からエルドラド殿下はさらに聖女というシステムを嫌うようになった。
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