嘘も孤独も全部まとめて
「へへっ……」


「どうした?」


情けない笑い声が聞こえ、杏里紗の顔を覗き込む。


「あんだけ嫌だった場所なのに、住所……ちゃんと覚えてる…。人間の記憶ってすごいね」


嫌な記憶に潰されないよう、後ろから抱き締めた。


「『父』と『母』…」


ボールペンを握る力が強くなったのが、手のひら越しに伝わってくる。


「大丈夫。ここの『父』の欄は、実の父親の名前だから」


「あたしの母親…シングルマザーだったから父親居ない」


「…そっ…か…。じゃあ空白で」


震える声と手。

鼻をすする音も聞こえる。


「……書けた」


俺の方を振り返った杏里紗の頬には、涙が伝っていた。
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