嘘も孤独も全部まとめて
「杏里紗……たくさん苦しませてごめんなさい…。透さん、呼んでいただいてありがとう…。不出来な私が言うことじゃないけど…。杏里紗をよろしくお願いします。今日はありがとうございました」


深く頭を下げたかと思うとマイクをスタッフに渡し、扉へ向かう母親。


「……お母さんっ!」


反射的に体が動いた。

走りにくくて転びそうになりながら、それでも立ち止まれなくて。

会場を出ようとする母親の背中にしがみついた。


「――里紗…っ」


消えそうな声。


「……待っ…て」


今を逃してしまえば、もう一生会えないような気がしたから。
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